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用語TIPS


◆アルフェイム大陸

 かつて地球上に存在していた小さな陸地である。
 約7万5千年前に《来訪者》の恒星間移民船によって隔離され、量子的な重合状態にある閉じた時空連続体に封じられていた。
 アルフェイムとは当時の言葉で『精霊卿』を意味する語が変化したものである。こう呼ばれるようになった大元の言語は印欧祖語に近い時代のものであるため今では遺失しているが、古ノルド語の『アールヴ(妖精)』や『ヘイム(国)』などの単語と同一のルーツを持つと思われる。

 地球上への再出現時には太平洋上、アメリカ合衆国から西の沖に現れたが、本来1億9千年前に生成が始まった太平洋プレートに大陸は存在し得ない(花崗岩を多く含む大陸プレートの生成は、プルームの対流活動が活発であった25億年ほど前までしか行われていない)ことから、地質学者の間では、本来の位置について二つの仮説に分かれている。
 ひとつは、北アメリカプレートの一部がある時期に西側へと小さく分離し、現在の太平洋プレートはその『残骸』を取り込んだ複合プレートであるという説である。この論では、分散型境界である東太平洋海嶺の働きによって、元々サンアンドレアス断層西部にあった大陸が分断され、ユーラシア大陸東部アジア側に存在しているスーパーコールドプルームの強力な下降流にプレートが吸い寄せられ、南部太平洋プレートと北部太平洋プレートの間に挟まれる形で北西に移動していったと説明する。
 そしてもう一つは、本来この大陸があったのは太平洋上ではなく、オーストラリアプレート東端の南ニューヘブリデス海溝周辺にあったのではないかという説である。古地磁気学による裏付けが待たれるところだが、異なる時空連続体に数万年間切り離されていた影響もあって磁化獲得時の水平面や地層の年代測定が難しく、調査は難航している。
 いずれにしてもプレート・テクトニクスの関係上、旧パンゲア大陸の更に西側か東側に位置していた陸地であり、ロレミア山脈は当時潜り込んだ海洋プレートによる造山活動で形成されたものと推定されている。

 一部のオカルティストの間ではアトランティス大陸などの伝説上の陸地との関係が指摘されているが、確たる証拠はなく、推測の域を出ない。


◆異世界

 《来訪者》によって人工的に生成維持された、小さな空間のこと。
 シオンはこれを小さな宇宙に例えて『時空連続体』と表現したが、四次元多様体として独立しているわけではない。通常空間の物質とはお互いに干渉不可能な『量子重合状態』にあるが、これは構成粒子の性質の差異というより、空間(正式に定義された名称ではないが、便宜的に『存在位相』とも言われる)そのものの性質と解釈した方が実態に近い。
 この空間中では高度な虚数物理学技術による重力場制御が行われており、少なくともアルフェイム大陸周辺では地球環境とほぼ同様の表面重力と気圧が観測できる。また、見かけ上の天体運動を行う人工疑似太陽によって中心部の温度が維持されている。天候の変化もあり、何らかの循環維持機能が働いていると見られる。
 かつてはロレミア山脈中央の制御室から、空間全体にかかる重力負荷を操作することで、時間の進みを早くしたり遅くしたりすることも可能であったようだ。操作する者がいなくなってからは、この主観時間の進行速度は地球上の約二倍で固定されている。

 しかし、この空間の形成以来、大きくずらされた『存在位相』は、熱された水が再び冷えていくように僅かずつ元に戻っており、このまま放置しておけば、それこそシオンが当初危惧していたように、位相が完全に元に戻った瞬間に大陸規模の核融合爆発が発生し、地殻の一部をアセノスフェア層まで吹き飛ばすほどの大破壊と、広範囲への放射能汚染が起こる状態であった。(これは約2億5千万年前に発生し、地球上の98%の生物を絶滅させたスーパーホットプルームの噴出を遥かに凌駕する威力である)
 実際には、そうなる前に可能な限り安全な転移を行うようなセーフティーが備わっていたため、軽度の自然災害はあれど大事には至らなかった。これは『電池が残り少なくなった時、完全にゼロになる前に自動で電源を切る機能』のようなものである。

 元々この技術は災害から身を隠し、時間を飛ばすための『シェルター』として用いられることを想定して作られたものであり、これを応用して仮想環境のシミュレートにも使えることは広く知られていた。実験室では小規模な『異世界』が惑星環境を回復させるためのテストケースとして観察されていたようだ。
 そのため、移民船に併設されていた分子合成装置(レプリケーター)で大規模な装置や拡張設備を敷設することが可能であった。
 無論、本来は構造維持の限界まで働かせっぱなしにするような用途は想定されておらず、『用が済んだら畳む』ものである。大陸一つ分もの広大な別位相空間を作り出すのもまた本来の使い方ではない。想定範囲外の虚数質量体の濃縮が起こり、反動性細胞変質症が発生したのはこのためである。(このような現象が起こりうることは、それまで知られていなかった)

 他の《来訪者》由来の技術と同様、原動力には真空相転移エネルギーを用いている。


◆転移現象

 人間などの高度な感情活動を行える脳機能を持った知性体が、強い感情の発現によって意識体を振動させ、特定の力場を形成することで、その力場で包まれた空間自体が地球上から異世界に転移してしまう自然現象。
 誰でもこのような転移が行えるわけではなく、転移力場を形成するための虚数振動波を脳が発生させるには、特定の遺伝子配列によってコードされる数種の蛋白質が脳神経に働きかけることが必要だとわかっている。
 この現象は、初めからこうすれば転移できるように異世界が設計されたわけではなく、それら諸々の条件が揃った時にのみ、偶発的に本来の転移装置と似た現象を発生させてしまえるということである。それも、異世界の存在位相がここまで実空間と近似する状態にならなければ、これだけで転移することは不可能であった。
 かつて《来訪者》たちは、腕に装着した小型コンソールによって似た現象を発生させ、より自由に制御された転移を行っていたようだ。


◆反動性細胞変質症

 生命体があまりにも濃い虚数質量体濃度に晒された時、意識体が周囲の環境変化を感じとり、そのフィードバックを受けた脳がDNAの半保存的複製を選択的に失敗させる信号を出してしまうという、指向性を持つ遺伝子の変容現象である。
 このような環境下に長く置かれ続けると、その個体は正常な細胞活動が行われなくなり、アポトーシス障害を起こして異形の姿に成り果てる。重要な器官にも変調を来すため、発症者は大抵、程なくして死に至る。

 皮膚や髪の代謝法則が変わって甲殻のように硬質化するという代表的な症状の他にも、本来は胎児期にのみ行われる細胞増殖が再び行われて身体部位が増え始めたり、延長されたり、メラノサイトが変異して肌や目の色が変化するといった現象が多く発生する。珍しい例では、全身の皮膚から新しい生きた胎児が発生するといった現象が報告されていた(患者はその後心臓が増殖をはじめ、間もなく死亡するとともに、全身の胎児の生命活動も停止した)。

 災害後には、この現象を分析し、人為的な進化や身体能力の強化などに役立てられないかという研究が企画されている。


◆量子重合状態

 『量子的多重構造論』によって示された、二種以上の異なる量子場が一つの空間座標に対して完全に重合して存在している状態のこと。
 波動力学の確率解釈に似たような概念が登場するが、全く別物である。これは量子の『存在位相』がずれていると説明される現象であり、実際に、同一の空間上で物質が二重に存在している。
 しかし異なる存在位相を持つ量子場同士が互いに干渉し合うことはないため、原理とは裏腹に、マクロな視点での観測上はほとんど『もう一つの独立した時空間』として見なすことができる。

 実際のところ、自然に粒子の存在位相がずれることはほとんど皆無であり、《来訪者》たちが異世界を作り出したがために地球周辺で観測されるに至った現象である。そういった"気付きやすい"条件がなければ、本来この程度の文明レベルで解明できるような現象ではなかった。


◆虚数物理学

 古典においてタキオン粒子と総称されてきた、虚数質量体の運動を研究する物理学の一分野。
 虚数質量体は実数質量体とは相互干渉できないため、観測も研究も非常に難しいのだが、近年になって重力場などのある種の力場が両物質に同様に作用しており、その残渣を観測し読み解くことによって間接的な観測が可能になった。
 未だに研究史は浅いが、これまでの経験則から人間の『意識』や『魂』などと呼ばれていたものが、この虚数領域の物理現象として存在し得ることが示唆されており、それらは正式な組成こそ不明だが、意識体・幽体などと定義され、さらなる研究が進められている。

 念のため付記しておくと、意識体というのは飽くまでもただの『意識』の物理的存在であって、記憶や思考などはすべて肉体が電気的に行っている脳神経回路の処理に過ぎない。
 ただし、どうやら極小の力場を介して、脳から意識体へ、また意識体から脳への情報伝達が行われているらしく、強力な思考や、それに伴う意識体振動がそれぞれに影響を及ぼすことは珍しくない。例えば怒りや悲しみ、また極度の喜びなど、強い意識体振動を伴う感情は、近辺の他者の意識体に共振を起こすことによって『感情の気配』のようなものを読み取ることができる。かつて『テレパシー』などと呼ばれていた事象が実在するならば、この共振情報を読み取る能力に優れた脳構造の変異だったのではないかとも言われている。

 また、虚数質量体は超光速で運動しており、実数物質とは逆に減速するためにエネルギーを必要とする。そのため、この感情波の共振現象は虚数領域を超光速で伝わり、実数時間から見ると因果が逆行して『実際に相手の脳が思考するよりも早く、共振した思考が伝達される』という一見奇妙な物理現象が起きる。ただし、この時間差は極めて短いものであるため、現象として実感できることはほとんどない。


◆魔法

 アルフェイム人が発現させることができる物理現象。
 彼ら特有の遺伝子配列がコードする数種の蛋白質が、脳神経回路の発火に応じて力場によって意識体に働きかける時、強力な指向性を持つ虚数振動波が生じる。これによって発生する力場は、素粒子の基本相互作用を媒介する場(ゲージ場)となり、それによって様々な現象が誘発される。また、難易度は高いが、意識体を介して生物の精神に干渉することも可能であり、強化魔法や認識阻害魔法などはこちらに分類される。
 特に『とんがり耳』や魔人の持つ遺伝子は、この作用を更に助ける働きがあり、普通のアルフェイム人よりも高度な魔法技術を習得しやすい。

 また、いくら基本相互作用の媒介粒子を自在に操れると言っても、その規模や精密性は術者の基礎技量に大幅に左右されるほか、無からエネルギーを生み出せるわけではないので、大魔法の行使には変換するためのエネルギー源と、変換プロセスに用いる魔法の組み合わせが必要になる。最上級者の戦いになると、このエネルギー源にはウィークボソンの操作によって引き起こした大規模なβ崩壊のエネルギーを用いるのが定番の手法である。
 冷凍系の魔法については、エネルギーを与えるのではなく、電磁気力の操作によって『既に高い状態である熱エネルギーを奪う』必要があるため、収奪した熱エネルギー(分子運動のエネルギー)を光などの形に変換するか、もしくは移動させることになる。

 転移現象もこれと似たような原理で発生しているため、世界間転移現象は人間の遺伝子で使える唯一の魔法であるとも言える。


◆とんがり耳

 ラグァウラス(Laggaurs)。または単にアウラスとも(耳っこ、のようなニュアンス)。Laggr=長い、Aurs=耳。
 アルフェイム人の中でも、現生人類の変種(人種のこと)よりも遺伝的構造が離れている、亜種の一つ。
 反動性細胞変質症の被害を逃れるために《来訪者》によって遺伝子改造処理を施された、かつての現生人類の変異体。正確には、処理の影響でその子孫たちに現れた形質の変化が種として固着したものである。
 横向きに尖るように伸びた耳と、髪や瞳の特異な色素、その他の人類で言う子供のような姿のまま成長することなどが特徴。『成長が遅い』ように見えることから勘違いされがちだが、寿命が特に長いわけではない。これはウーパールーパーやサイレンの仲間が、他のサンショウウオ等の仲間にとって『幼体の特徴』である鰓呼吸の特性を残したまま成体になるのと同じもので、幼形成熟(ネオテニー)という。

 余談ながら、現生人類もチンパンジーなどのその他の霊長類にとって『幼体』の特徴を色濃く残しており、幼形成熟種であるとする説がある。もしかしたら彼らは異世界への適応処理が行われる際、人類の遺伝子が獲得していった進化の法則の中で、この部分を強く発現させられたのかもしれない。


◆魔人

 ディヴァン(Deevwn)。Deeve=魔・邪、-wn=〜の人。
 反動性細胞変質症によって変異し、なんとか一命を取り留めたものの、このまま生き残るためには大幅な遺伝的改造を施さなければならなくなった現生人類グループの子孫であり、『とんがり耳』と同じく現生人類の亜種。新たに生まれてくる子が無軌道な変異を行って生命を落とすことがないように、予め安全、かつ生存に対して有利に働く変異を遺伝的形質として取り入れている。
 髪や瞳に加えて肌の色も様々に違い、色素細胞の傾向からやや灰色がかった彩度の低い肌色をした者が多い。また体毛が変化したケラチン質の角を持ち(形や大きさには個人差がある)、皮膚の一部が硬質化して角鱗のようになる。この角鱗化は人間の体毛、あるいはペンだこ等のように『守るべき場所』や『酷使した部分』に形成され、新陳代謝が行われにくくなるため、一定時期で脱皮するようにペリペリと剥がれる。
 総じて身体能力や魔法を扱う能力が高い。

 祖神信仰という『魔人族の祖先(と、彼らが信じるもの)』を奉ずる特有の宗教観を持つ。善悪の価値観はその他の世界宗教と似たり寄ったりだが、やや実力主義を礼賛する向きがある。この宗教観のためか、社会的弱者の支援や保障制度の充実が軽視されがちである。ただし、『強い者が自分よりも弱い者を"個人的に"助ける』ことは、義務ではないが誇りであり名誉であるという考え方が根付いており、一般的に人権意識が希薄であるわけではない。


◆魔神

 アル・ディヴァル(Agr Deevallr)。Agr=偉大である・高貴である者につける敬称、Deeve=魔、Allr=父。
 魔人たちが言うところの『祖なる神』であり、変異した《来訪者》の成れの果て。
 シオン達が『祖なる神の神殿』で見た立体映像の人物そのもの。ヒューマノイドとしての形状こそ保っていたが、あまりにも地球人類からはかけ離れた姿となっていたため、また『我々に似た者を選んで進化に手を貸した』という言葉から因果を逆転して捉えてしまい、結局、一行は同じ地球人であることに気付けなかった。


◆漂流者

 アルシゥァン(Earthwn)。Earthはもちろん地球のことだが、アルフェイム人はRにあたる音素をやや強く発音するため、それに合わせて『アルス』と表記する。-wnはDeevwnの項でも述べた通り、〜人という意味合いの接尾辞。
 作中ではフィーネがシオンを指してこう呼んだが、『地球(アルス)』という語がアルフェイムに広まっているのは彼ら調査隊が派遣されてからであるため、比較的新しい単語である。


◆来訪者

 遥か未来、災厄によって滅びに向かいつつある地球から独断で脱出し、過去の地球に辿り着いてしまった一団。作中人物たちが呼び名を統一しているわけではないが、便宜的な項目名としてこう記述する。
 科学者や技術者の集団というよりは、一部の権力者たちが主導する政治的側面の色濃い団体であったようだ。艦の航行や、異世界を作り出したシェルター装置を、また遺伝子処理のための医療デッキの操作くらいはこなせる程度の人材は含まれていたようだが、予測が利かず、事態の対処がことごとく後手に回っていることから、恐らく『一般市民にしてはちょっと詳しい』程度の知識量が限界だったのではないかと推察される。

 数万年前のものとは言え、彼らが過去の地球を目の当たりにしてなおそれと気付かなかったということは、ほとんどの野生動物が絶滅して生態情報が遺失しているか、少なくとも一般に敷衍されていないことが示唆される。
 また、よく描かれる太陽系図のように、惑星は肉眼視できるような距離にはないため、単なるレーダー上のデータだけでは気付けなかっただけという可能性もあるが、金星や火星など、太陽系各惑星の大きさや組成が故郷のそれと一致することに気付いていないということは、遠い未来では恒星系全体の様相までもが変わっているのかもしれない。


◆せいなるつるぎ

 サクス・プラィミュア(Sakth Prymmur)。サクス=剣、プラィミュア=祝福された・輝く。
 恒星間移民船、エデン級三番艦"ケデシュ"が本来の名である。当時既に完成していた同型艦には一番艦"エデン"、二番艦"カナン"、そして四番艦"ゲッセマネ"がある。大気圏内ではなく宇宙空間での航行を想定しているため、無重力下での姿勢制御に向く設計をしており、あまり流体力学を考慮したシルエットはしていない。
 『移民船』と言うには小型だが、艦内にはある程度の循環環境が整っているほか、現在では機能していないが、分子合成装置(レプリケーター)と分子貯蔵庫のための資源採掘機が搭載されており、長期間の航行に耐えうる設計となっている。
 動力は幽体動力機による真空相転移エネルギーを用いる。


◆円環

 アリストゥム(Allistum)。小さな円、転じて同盟・調和を意味する単語。
 アルフェイム三国に跨って存続していた秘密結社。本来の目的は『生存』と『進歩』──すなわちアルフェイム人の絶滅の回避・秩序の維持と、効率的な技術の発展である。各地に遺された資料から類推するには、そもそもの来歴は《来訪者》たちの直属の補佐を行っていたアルフェイム人が彼らの思想を受け継いだことによる。





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