彼ら二人の師とは、帝国の暗部を担う『闇の五芒星』のひとり、『黄昏』のウィズバルトその人である。途中からは彼と通じていた。
　エメリス・ベネギア間の政治的安定のために、という名目で内通者として仕立て上げられ、人類全体のためにシスの過剰な暴走を止めるつもりで裏切りに加担したが、実際のところは全て『円環』の筋書き通りに戦争が進められていたというだけの事に過ぎなかった。
　勇者シスというコントロールが効かない割に強力すぎる駒は、制御できない可能性の塊であり、あまり暴れられると都合が悪かったことや、また、勇者の死という歴史的事象を通じて大衆感情を揺るがし、戦争の局面をまた一つ転がすことを目的として、計画は実行されていた。

　シスの脱出によって計画は修正を余儀なくされ、それからはウィズバルトの配下として様々に動いていたが、彼はむしろシスが生き残ることを予測しており、帝国も魔国も『円環』すらも欺いて、真実に指をかけるために暗躍していた。
　彼による情報の集積は、すべてザックの手に託されてまとめ上げられ、後にシスの手に渡ることになる。
　しかし、両者が再び相見える時、彼は黒死病に冒されて死を待つばかりの身となっていた。そうして『円環』の手がかりとなり得る情報を託したのち、間もなくして死亡。病原体を用いた迂遠な暗殺という説もあるが、詳細は不明である。