◆霧島 結ゆい
東京都のわりと外れに位置する東大和市で概ね平和に暮らしていた女子中学生。
聖とは小学生時代からの親友。長毛種の猫のようなふわふわの癖毛が印象的な、聖とは対照的に健康的な少女。
体を動かすのが好きで、頭も悪くはなく、成績は中〜上位をキープしている。気丈と脳天気の中間のような性格で、よく笑い、よく喋る。大きなコミュニティの中心になるようなカリスマ的存在ではないが、気付けばクラスの殆どの集団と繋がりがあるようなタイプ。
普段は明るく振る舞ってはいるものの、自分でも無意識のうちに負担を重ねており、やや情緒不安定な節がある。『誰かに頼られること』や『誰かの役に立つこと』を美徳のように捉えており、そのせいで自分の事は誰にも頼れず一人で背負い込みがち。
聖は唯一と言っていいほど数少ない、弱みを見せられる相手である。曰く『過剰に騒がず、常に冷静で、嫌な顔もせずただ隣にいてくれる』との事……だが、それは少々主観的な過大評価であり、聖自身は単に『どうしたらいいのかわからない』から黙って横にいるだけである。
美少女と言って仔細ない容姿の持ち主ではあるが、やや所作が豪快というか、お世辞にも『お淑やか』ではないせいか、男子ウケはそこまで良くない。とは言え見た目は良いため、何度か告白を受けたことはあるものの、いずれにせよ全て断っている。
ロック音楽の中でもヴィジュアル系のバンドを特に好む、いわゆるバンギャル。と言うと本人は「いや私ギャって呼べるほどガチ勢じゃねーから、にわかファンだから」などと否定するが、傍から見ればその範疇なのは変わらない。
私服のバリエーションは多めで、ラフでカジュアルなものを好む。ガーリッシュで可愛らしいものは自分には似合わないと思っているのか、あまり持っていない。繁華街に出る時などはパンク系ファッションもよく着用する。
螢一に対しては純粋に尊敬の念を抱いてはいるが、聖を、というよりは『聖に頼られる唯一の親友という座』を奪われたようにも感じており、わりと大きな嫉妬心を抱えている。
しかし、何よりもそんな自分の感情を『醜い』とも思っており、密かに自己嫌悪中。
【▼ネタバレ表示▼】
フェイト達により付近に実体化させられていた亜存在が捕らえられる前に運悪く遭遇してしまい、心臓を貫かれ殺害される。それを見たフェイトが、咄嗟にマヤの力を使って虚数領域に霧散しかけたアストラル体を繋ぎ止めようとした結果、亜存在の汚染された虚数質量体を取り込んでしまい、自身も亜存在化。
以降、しばらく不安定な状態で彷徨っていた(この間の記憶は無いが、恐らく、とにかく聖に会いに行こうとしていた事と、聖の周囲の危険そうなものを排除しようとした事が殺戮に繋がった)が、ルシフェルと交戦し消滅しかけたところをフェイト達に発見され、空間跳躍により保護される。
彼らによって意識の指向性を人為的に調整され、自我と記憶をほとんど生前に近い状態で取り戻すも、亜存在の深層記憶(いわゆる集合的無意識)に共鳴したため、遠からず訪れる破滅の未来を、ついでに自分たちが『前の歴史』に縛られていることを知ってしまう。
それからは人間に成りすまして日常に戻ることもできたが、最終的には結自身の意志でこれを拒絶。一人残されて虚無的に日々を生きるよりも、亜存在としての力を世界再生のために使うことを決める。
薔薇十字団にとっては討伐対象であるため交戦することもあれば、比較的正常な理性を持つため共闘することもある。
『人の業』から生まれた『魔の力』を宿しながら、『神の命』をもって歪を斬る、その立ち位置は聖の対極である『魔の勇者』。神殺しを目論む聖の方こそが、世界秩序にとっては『魔』に近いかもしれないが。
自分でもよく解っていないながらも両性愛者であり、聖のことも、友人としてというよりは恋愛的な意味で好意を抱いていた。
同年代の男性にはあまり魅力を感じたことがなかったが、最初の例外として現れたのが螢一である。最初は聖を取られるのではないかという危機感と嫉妬心から、計算高く敢えて好意的に接しながら観察していたのだが、彼のことを知るにつれて、次第に恋心に似た感情が芽生え始めていった。
聖のことを好きなまま、聖以外の人に興味を持ったのは、結にとってそれが初めての経験で、『実は自分は軽薄で浮気性な人間だったのか?』『聖が手に入らないからって無意識に他に目を向けようとしてるだけじゃないか?』と自問しながら、欲望と倫理観、そして社会的抑圧との狭間で結論が出せずに苦悩することになる。
ちなみに後から思い返すと「いや普通に両方おんなじくらい好きになっちゃってどっちがいいかなーってなってただけだわ……クズい……私クズい……」との事。
聖の、と言うよりはアビスゲートの能力が無ければ終の楽園への道は開けないことを既に知っていたため、大詰めの局面で彼女を封じるため鏡面世界を転移。最期の瞬間は二人で静かに終わりたいという気持ちもあった。
しかし聖もその狙いには気付いており、わざと誘いに乗っていた。真夜中の母校を舞台に交戦を開始するが、結を無理矢理『元に戻す』か、もしくは世界が終わるなら『一緒に再生後の世界まで生き残る』ためにアビスゲートの能力を限界以上に引き出そうとした結果、聖はアビスゲートの意思に呑まれて人形と化してしまう。
最後には、聖の剣に胸を貫かれながらも放った自己犠牲魔法により『意識体』を融け合わせ、聖としての自我を導き平定した後、力を使い果たしたことと、本体である意識を他者と融合したことで自己を保てなくなり、『最期のわがまま』として聖のファーストキスを奪って消滅した。
しかしその瞬間、聖の持つ虚数視力の仕組みのためか、意識体を融合させた際の肉体への情報フィードバックにより、聖の脳に結の人格パターンや記憶情報が刻印されており、内心で対話することができるようになった。いわば聖の肉体を共有する形で『移り住んだ』とも言える。一つのハードディスクを論理パーティションで区切って二つにしているようなもの。
ただし、それは飽くまでも『聖の脳の物理的状態が変化しただけ』であり、そこに彼女の意識が変わらずに存在しているかどうかは確かめようがなく、言ってしまえば、親友を殺してしまった聖が心理的ストレスにより創り出した架空の人格かもしれない。スワンプマンの思考実験のようなものである。
この状態について、当初聖の研究を担当していた医師は、最終的に『同じ脳を使っているため、聖の死と共に結も死亡する』か、『次第に二人分の記憶と思考が漏洩するように合一化していき、結でも聖でもある一つの個になる』という結末を予想している。
ちなみにクロノブレイク前の歴史においては、聖を名無子に引き合わせてしまったため間接的な死因となっているが、いずれにせよ遠からず能力の負荷によって死亡していたため死期を僅かに伸ばしたとも言える。どちらが幸福だったかは確かめようがない。
結自身もそのことに責任を感じ続けながら非日常に身を置き、隼人やシンと共に歪バロックの女王『EVE』との交戦ののち、自らに半同化することで撃破。新たな女王となる前に自ら生命を断っている。