◆ヤイバ
プロフィール・データは生前のものを記載している。元は亜人のエルーン種だった。
出身地は便宜的に現在の地名を用いているが、彼の出生当時は『北アメリカ連盟』である。
亜存在・刻印体のうち一体。彼が自己認識している名は、『ヤイバ』『ツルギ』『ブレード』『ブキ』などを含む広範な『意味そのもの』であるため、特定言語で表記することは難しい。ここでは便宜的にヤイバと呼ぶ。
彼は他の刻印体よりも正気を保っているように見え、また、例外的に『剣』の形状を取っていても自己同一性を失わず、暗黒体に回帰しないという特徴を持つ。(通常、亜存在刻印体は過度の変形などによって『自分』を見失うと暗黒体に戻ってしまう)
亜存在の特徴として『攻撃意思を持って接触したものを削り取る』能力があるため、その剣は『斬る』というより『太刀筋上のものを消滅させる』という強力無比な威力を持つ。ただし、『意識』を持ったものが充分な『感情』を込めて振るった武器には、消滅効果が現れるよりも前に到達を阻まれてしまうため弾かれてしまうようだ。
通常はこの能力を用いて、剣化した自身を持たせた相手を虚数共振によって操り人形と成し、戦う。
前だけ伸ばした紫色の髪に両目を覆い隠すような髪型をしていて、表情が読みにくい。その下にはやや少年っぽさを残した容貌と、髪よりも薄い赤紫の瞳がある。口許は常に楽しげに緩んでいるが、双眸はどこか疲れきったような倦怠の色を孕む。
あまりにも長く生きているためか、時間間隔が異常に悠長。食事を摂る必要すらないため、特別に意識しなければぼんやりと寝転がっているだけで数年が経過してしまうほど。
『未知』を好み、真新しさに関心を抱く。とはいえ常に積極的に世界の動向に気を配っているわけではなく、概ね思考はうつろな停滞の中にあり、受動的に飛び込んでくる物事だけに目を向けている。ただし『物語』には常にある程度の興味を示す。
また、知識というよりは『経験』の量があまりにも多く、無限に思考してしまい判断を下せなくなるため、意図的に一定以上の熟考をしないようにしている。傍から見れば、それは適当で軽薄な態度に見えるだろう。
【ネタバレ表示】
元々は、鐫界器開発初期の人体実験における被験体の少年。
人工的な高次情報波の過剰照射によってフェイズ・ダウンを起こしたものの、比較的後期の実験であり『成功寸前』とも言える状態での失敗例だったせいか、精神と人格が比較的正常であったため、『処理』されないまま、後の実験のために厳重な管理の下で収容されていた。
結局、別の実験に用いられることもなく、収容されたままクロノブレイクによって遥かな過去に飛ばされ、今に至る。
彼に『剣化』が可能なのは、鐫界器への存在改変を試みた名残と思われる。意識という極めて不安定かつ不明瞭な領域のことゆえに仔細な条件は不明だが、恐らく実験過程で『武器』のイメージだけが残留したのだろう。
なお、彼の実験結果を鑑みて、次に行われた実験で生み出されたのが自律駆動型のプロトタイプであるシルフィード(後のルナ)である。施行順序が一つずれていれば、彼が最初の成功例になっていたかもしれない。
流れ流れて一度はライトや聖と敵対するも、最終的にリミルの手に渡り、彼女を自身の『所有者』として認める。
これは聖と結のように意識体を完全に融合したわけではないため、普段の内心での対話や感覚の共有はできないが、普段はリミルの身体に付随する一つの意識として眠っており、彼女の意思に応じて彼を召喚することができる。
また、召喚した後は意識共振による心理対話が可能で、所有者本人がそう望んで身体を受け渡せば、意識を保ったまま一時的に身体だけを預けて動かさせることなどができる。
ヤイバ自身、以前から同様に自身を『所有』させて戦ったことがあり、培われた戦闘技術は高く、リミルは彼に身体を動かしてもらうことによって短期間で様々な流派の混ざった剣術を体得していった。
召喚待機中はほとんど意識が無いらしく、人間で言うと寝起き際のまどろみの中のような、霧霞に包まれた中で薄ぼんやりと周囲の出来事が知覚できるような感覚だという。本人曰く『ずっと寝ていて起こさない限り起きない状態みたいなものだから気にしないでいい』とのことだが、リミルはどうしても気になるようだ。
人間らしい感情のようなものは大部分が喪失しており、欲と言える欲もなく、ただ漫然と日々を過ごしている。リミルに置いて行かれている時は、時折人型として現出しては現代の漫画や小説、映画などを鑑賞している。