◆桜花 聖ひじり
純白の髪と瞳を持つ亜人の少女。鐫界器『アビスゲート』に選ばれた使い手であり、その鐫界能力を用いて『時』に干渉する権能を持つ。
もともとの性格については人間時の項目を参照。
現代日本でわりと平和に暮らしていたが、亜存在を巡る騒動に首を突っ込んでいたらアビスゲートの鐫界能力で亜人に改変され、魔法少女ミラクルひじりんMk-IIリミテッドバージョン改(本人談)と化した。
兇闇と同様に薔薇十字団ドイツ本部所属の処刑者として登録されており、まだ幼く来歴も浅いながら、最高級の鐫界器であるアビスゲートを使いこなせるため単純な戦闘能力は非常に高い。ただしドイツ語どころか英語も危ういため、日本語話者以外と話す場合は常に通訳を必要とする。
理不尽な悲劇を経験し、平和な日常から引き離されて死ぬか殺すかの殺伐ワールドに強制転移させられた身ではあるが、『戦闘能力』というアイデンティティを得たためか、単に身体改変の影響で脳内物質や自律神経系が安定しただけか、以前人間だった頃よりも僅かずつ明るくなりつつある。
とは言え、全ての知り合いから離れ、唯一と言っていい拠り所となった兇闇の存在は非常に大きなウェイトを占めており、薔薇十字団での活動を続けられているのも、彼がずっと傍にいてくれたおかげだと認識している。
しかし、彼に対して人間的な『好意』は抱いているが、その間にあるのは一方的な甘えと依存であり、それを『愛情』と呼んでいいのかは本人も疑問視しているようだ。もともとの自己評価の低さも相まって、その感情を身勝手な欲と捉えて過度に抑圧している。
傍目からは『聖が兇闇を一方的に好き』なように見えるし、実際周囲からそう思われる事は多かったが、実際には『単なる好奇心を許容してくれる、信用できる男性』が彼だっただけ。その許容は『兇闇から聖への好意』の上に成り立っており、好意のベクトルは真逆である。
強引に身体を改変されているためか、それとも作為的なものなのか、遺伝子情報は通常の亜人種と微妙に異なる。極端な差ではないが、基礎代謝能力や身体機能が若干強化・効率化されているらしく、当時彼女の調査を担当した研究医は『一段階進化した人類のようなもの』と例えた。具体的には筋組織自体の強度や、疲労の蓄積・回復スピード、栄養素の吸収効率や感覚神経の鋭敏化など、多岐に渡って有意な差が見られるという。副作用として、ごく少量の食事で満腹になり、筋肉組織そのものが強靭なため今以上に鍛えることが難しく(組織があまり破壊されないので超再生が起きない)、肝機能の強化によりほとんど酒に酔うことができない。
また、この変異、というより『進化』のために、彼女は子を成すことができない。エストロゲンとプロゲステロンの分泌バランスが常に安定しているため、本来その差によって発生する月経が起こらないのである。彼女を『より進化した別種の生物』として見た場合、類推にすぎないが、これは恐らく人口爆発を抑制するための仕組みの一つで、何らかの環境条件によって発情期のようなものが誘発されるのではないかと言われている。
ちなみに本人的にはあまり悲観していない。むしろ面倒な現象が無くなってラッキーくらいに思っている。
【▼ネタバレ表示▼】
一種の『虚数視力』(アストラル体の共振現象による知覚。意識の側から物理肉体へのフィードバックによって発生する)を有しており、亜存在の核・本質を視ることができる。
この能力自体は別段珍しいものではないが、脳は本来その情報を正確に認識・理解できないため、本人が能力に気付くことは少ない。後天的な経験によって感受性が研ぎ澄まされることによって、人の『意識』の起こす波紋や、死者が残した『意識』の残滓などを朧気に感じ取れるようになってゆく。一般に『霊感』と呼ばれるものの一部はこの段階に達した虚数視力であることが多い。
念のため付記しておくと、『独立して思考可能な死者の霊』などというものは存在せず、飽くまでも死に際の強い感情が残した波が感じ取れるようなものである。
クロノブレイク前の歴史では、この能力を名無子に利用され、その肉体と精神を魔術儀式のアンプリファイアーとすることで虚数領域の深層にアクセスする媒介となった。この際の負荷によって、彼女の自我は霧散し、死亡している。
クロノブレイク後の歴史で『人間としての聖』が一度死なねばならなかった事も、この一件がウォーグ達の定めた地球歴史是正システムの仕様に引っかかったため(前の歴史と全く同じタイミングで死なねばならなかった)である。意図していない挙動を無理矢理発生させたために起きたバグのようなものだが、クロノブレイクによる時間軸の隔絶が解決した後、仕様変更が行われた。
亜人化して以降は運命から目を逸らすように、流されるままに戦いに身を置いていたが、鏡合わせのような運命を辿った親友である結の救済――もしくは決着を望む意志に惹かれてゆき、次第に自らの意思で、自らの戦いを追い求めるようになる。
そんな折、堂々と姿を表した結の『戦力の1:1交換』の誘いを独断で受諾し、再び鏡面世界を転移。彼女と共に元の世界に戻り、あとは皆に任せて世界の終焉まで二人で過ごす――なんて事はなく、それは『他に誰も危険に晒すことなく戦える』状況を作るためだった。
しかし彼女を『戻す』もしくは『共に生き残る』ためにアビスゲートの力を限界を超えて引き出そうとした結果、本質的には生ける武器であるアビスゲートに意識を呑まれて合一化し、アビスゲートの意志を遂行するための人形と化してしまう。
結果、聖が当初やろうとしていた事をやり返すように、結はその身を犠牲に聖を救った。『自己犠牲魔法ハロゥド・ビー・ザイ・ネイム』による虚数抵抗(意識の防壁)貫通を応用し、亜存在としての全存在を聖の意識と融け合わせ、導き、平定したのである。
それ以降、聖は『結』らしき別の人格と記憶を自分の脳に共存させており、内心で対話することが可能となった。その人格は、もしかしたら元々意識だけの存在であった結が消滅間際に聖の中にインストールされたものかもしれないし、現実に耐えかねた聖が勝手に創り出してそう思い込んでいるだけの架空の人格かもしれない。ただ聖自身は、彼女本人が自分の中に移ったのだと固く信じている。
彼女の談では、どうやら結とは感覚も共有しているらしく、例えば聖が食べたものの味を聖の中の結は感じることができ、逐一内心でコメントしてくるという。常にコメントを言い合えるので、アニメや映画を観るのが前より楽しくなったらしい。
亜存在殲滅戦においては航宙巡洋艦レギンレイヴに搭乗し、完全に制御可能となったアビスゲートの時空間干渉を用いて、銀河系中心核の大質量ブラックホール特異点から『終の楽園』へのゲートを開く。
その後の最終決戦では、ライトの血液を用いてルナを所有認証し身に纏い、ラスティから受け継いだモーントリヒトも共に、三つの鐫界器を同時に扱う『勇者』として神と戦った。