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TRICK☆SCHooL! ※ タイトルと内容は微塵も関係ありません 「ぬわーーーーっっ!!」 唐突に叫声が響き、校舎裏のベンチに寝転んでいたライトは弾かれるように飛び起きた。 校舎の角に隠れてしまってよくは見えなかったが、まばらに草の生えた地面には、倒れた人間の足らしきものが見て取れた。服の色からして、倒れているのはこの学校の生徒らしい。 慌ててベンチから飛び降り、駆け寄ってみると、倒れていたのはライトのよく見知った男だった。周囲に数人のパパスも倒れていたが、それはこの際モブとして無視することにする。 「ライトさん、何かあったん――うわー!?」 背後から息を切らして走ってきた誰かが大きく仰け反り、そのまま転倒したような音がした。振り返ってみると事実その通りだったようで、小さな幽霊の少女――華鈴は、するべき表情を見失ったような、引きつった笑顔で地面に座り込んでいた。死人を見て驚く死人と言うのも、なんともおかしな話ではある。 「な、な、なんですかこれ、なんで冒頭からシグマさんが死んでるんですか」 「ゲマにメラゾーマでも撃たれたんじゃねぇの……?」 邪魔なパパスを適当な所に転がしておき、ライトは改めて倒れているシグマを調べ始めた。 見ると、何やら本当に焼けこげたような跡がある。やはり死因はメラゾーマで決定か。術者によってはそれはメラゾーマではなくメラだったりするかもしれないが、大差はあるまい。 「くっ、人に恨まれるようなヤツじゃなかったのに……ロリコンだったけど」 「ライトさん、本当に悲しんでますかそれ……」 シグマ ここに眠る(笑)≠ニ書いたメモ用紙を安全ピンでシグマの胸元に留め、手を合わせてお経を唱え始めるライト。 そこに、また幾つかの足音が近づいてきた。どうやら悲鳴につられて、各地で暇にしていた人々が集まってきたらしい。 「どうした、騒がしい」 「あらぁ? シグマくんが死んでるー」 最初に駆けつけたのはライトやシグマの級友である 三人はシグマの倒れていた角を挟んで、ライトや華鈴とは逆側の道から走ってきていた。悲鳴が聞こえてからはそこまで時間は経っておらず、恐らく犯人はライトの寝ている道は避けて、そちらの道に逃げたと思われる。まさか何か面倒なトリックでもあるんじゃなかろうか……と、そんな事を思っていたら、シグマの身体が微かに動いた。 「ま、まだ死んでないよ、僕は……」 「おお、息がある! フレアさん、回復魔法お願いしm」 「メラゾーマ」 「ぬわーーーーっっ!!」 「シグマさ――ん!」 華鈴の声が 「ちょ、何してんすかフレアさん!」 「ライトくーん、推理モノは一人くらい死なないと盛り上がらないものよぉ」 爽やかな笑顔と間延びした声でそう返すフレアに、その場の空気が凍り付いた。まるで周辺一帯が完全に時間軸から やがて、その静寂の 「それもそうですねー」 「納得しちゃうの!? シグマさん死にましたけどッ!?」 シグマの焼死体を挟んで、なごやかに笑い合うライトとフレア。華鈴はその状況が理解できないようで一人おろおろしていたが、唯一の常識人である兇闇が肩に手を置いて「諦めろ」と一言呟くと静かになった。 そんな中、聖は全く動じずにタンポポを摘んで、すっかり香ばしくなったシグマにひたすらお供えしている。 「うぅん、でもこの事件はちょっと面白そうね〜」 だんだんとタンポポに埋まっていくシグマを見ながら、ぼそりと呟くフレア。 最終的に止めを刺したのは彼女なのだが、ライトはあまり考えないことにしておいた。 「今の学校内で事件が起きたって事はぁ、この事件は――」 「――推理ものの王道、孤立した地での殺人なのだッ!」 フレアの台詞は、遙か上空からの声に引き継がれた。 「このヴァルハラ高校は立川駅前に神話の時代より存在する古城を改造して造り上げられた学校、扉を閉めてある今では、通常の三倍(当社比)強固な城壁が中からも外からも人の出入りをシャットアウトしている!」 「こ、校長ッ!?」 聖書にも印されている堕天使の名≠ニ力≠現代に受け継いだ男、ルシフェルである。まあ力を受け継いだと言っても 「相変わらずぶっ壊れた設定だな……確かに現代ファンタジーは量産型作品の主流だが、ちと両者のバランス間違えちゃいないか」 兇闇は批判的な冷めた瞳でそう呟き、ライトが笑いながらその背を叩く。 「ある意味最もファンタジーな名前してる癖に何言ってんだよ、兇闇ィ」 「本名なわけあるかアホ、それは本来の名の日本語訳だ」 神速、表情一つ変えずに腰に差した剣を抜き放ち、その峰で二撃目を受け止めた兇闇とライトの間に、地鳴りのような効果音と不可視の電撃が鋭く走る。 「やっぱ強いな、流石は我がライバル」 「ライト、好敵手と言うのは実力的に切迫した相手に使う言葉だ。一方的に追いかけるしかできん相手に使うものではない」 両者の鋭い眼光と微笑から発せられた、一際大きい稲光が背景を貫き、その一端がタンポポの山と化したシグマを直撃して爆発、炎上した。そのすぐ前にいた聖は少し唖然としていたがすぐに立ち直り、何も言わずにポケットから生魚を取り出して、燃えさかるタンポポを使って焼き始めた。 「はいはいはぁい、皆さん一時流れ中断ーっ」 混沌とした場を収めるためか、フレアは手に持っていたながねぎを放り投げ、爆発させた。彼女にとってながねぎは魔法の杖の代替品みたいなものだろう、 「学校の敷地内は巨大な密室、つまりシグマくんを殺した犯人はまだこの中にいるって事よぉ」 「あのー、最終的にトドメ刺したのはフレア先生なんじゃー……」 「このまま放置しておけばアガサ・クリスティー的な流れになること請け合い……早く犯人を捕まえなきゃ〜」 華鈴のツッコミを無視して、ストーリーを強引に展開させてゆくフレア。いつものことだが、その代わり映えしない心底楽しそうな笑顔の裏には、何か黒いものが感じられる。 ともかく、何だかんだ言って面白いことが大好きな人々によって、壮大な謎解きが始まった。 その一連の謎解きは、まず上から見ていたルシフェルの証言から始まることになる。 「俺ァずっと屋上で薬品爆弾作って遊んでたんだが、試しに一つ放り投げてみたら見事に落ちて、それを追って下を覗いたときにはもうシグマ爆発してたな」 「なるほど……それからすぐに俺と華鈴が駆けつけたから、犯行から逃走までの時間は限りなく短いと言うことに……」 「え、あの、ちょっと待っ」 いきなりの爆弾発言(二つの意味で)に戸惑う華鈴を 「そして兇闇達やフレア先生が逆側の道から来た、と……」 「すれ違った人は誰もいなかったわぁ、そっちはどう?」 「俺達二人もだな、身を隠すような場所もない……フン、なかなか難解な事件じゃないか」 「いや、だからさっきの爆弾」 華鈴は懸命にライトの袖を引いているが、推理に熱中している皆には気付いて貰えていない。 「馬鹿な、それじゃ犯人は犯行後に消滅したってことになっちまうぞ?」 「待てライト、遠隔操作で何らかの仕掛けが作動した可能性もある。問題はその仕掛けが見当たらないことだが……」 「作動したら消滅する装置ってことかい……?」 やがて華鈴は諦めたのか、一人離れて魚を焼いている聖の隣に座り込んで、がっくりと項垂れながら独り言のように呟いた。 「私の考え方って、なんかおかしいんでしょうか……」 聖はそれを一瞥すると、串に刺した魚と醤油の入った瓶をそれぞれの手に持ち、表情を変えることなく華鈴に語りかける。 「……ししゃも、食べる?」 「え、あの」 「さかなを食べると……あたまがさかなになるらしい……」 「何か間違って覚えてると思います、それ」 気力の抜けた顔で少し焦げたししゃもを受け取り、それを頬張る華鈴。聖も自分のししゃもを小動物のように高速で囓り、その後で醤油を口に含む。明らかに塩分の過剰摂取、と言うか調味料の使い方を根本から勘違いしている彼女を華鈴が呆然として見ていると、唐突にライトが大声を上げた。 「そうか、犯人がわかったぞ!」 一瞬だけ場が静まり返り、ざわ……ざわ……とでも言わんばかりの騒然とした空気が辺りを包んだ。いるのは数人なのに。 「あ、ライトさんも気付いたんですね……よかった、私がヘンなわけじゃなくて」 この学校にいる人々は全員ヘンだと気付くのはいつになるのだろうか、安心したように呟く華鈴を一瞥して、ライトは左腕につけた時計のボタンに手を掛けた。 「よし、じゃあこの時計型麻酔銃でおっちゃんを眠らせて……」 「エンッ」 麻酔銃の一秒十六連打に撃たれ、ルシフェルはその場に倒れ込んだ。もちろん都合良く座り込むように眠ってくれたり背後に小学生くらいの子供が隠れられるスペースが偶然あったりはしない。 ともかく、ライトは致死量の麻酔薬に昏倒したルシフェルをひとまず邪魔にならない所に転がしておいて、腕組みをしながら静かに笑った。 「さて、じゃあ説明しよう」 「校長眠らせただけですか!? て言うか貴方達のせいで死者がどんどん増えてるような――」 もはやツッコミを入れているだけで息切れしている華鈴の額に、ライトが振り向きざまに放った麻痺投げナイフが命中した。 「みんな、深く考えるんだ。これは自然に起こり得る事故ではない、明らかに人の手による犯行……その人が生命体である限り、その行動は全て神経細胞内の電気信号……さらに突き詰めれば、遺伝子の配列に準拠する」 「何……?」 地面に倒れて ライトは最後の締めと言わんばかりに大仰な動作で扇子を畳み、開いた左手をまっすぐに突き出して、まるで見えないボールを持ち上げているかのような意味のないポーズをとりながら、はっきりと言い放つ。 「ドーキンスの 「な、なんだってー!?」 その瞬間、晴天だったはずの大空に雷鳴が轟き、全員分の「なんだってー!?」が遠い山峡に谺した。 「なるほどぉ、神様じゃ対処のしようがないし、仕方ないわねぇ〜」 「神を生贄にして と、僅かな間も置かずに空気を華麗に粉砕して、呑気な笑顔を浮かべたフレアと何故か復活しているルシフェルは、それぞれながねぎを振ってカラフルな爆煙の中に消えたり、ナチュラルに空を飛んだりして自分の持ち位置に帰っていった。 それを見届けたライトは、倒れている華鈴に駆け寄ってゆっくりとその身体を起こし、額に刺さっているナイフを引き抜いて、にこやかに笑いかける。 「さて、謎が解けたところで次の授業もあるし、俺らも帰るぜェー」 「は、はあ……」 焦点の定まらない瞳でライトを見返す華鈴は、聖と一緒になって魚を焼き始めた兇闇と燃えさかるタンポポ達に視線を移し、希薄な赤銀色の血液が溢れ出ている額の傷を押さえながらライトに向き直った。 「あの、シグマさん死んでますけど……あと私も、実体がある限り、幽霊でも痛いものは痛いんですよ……?」 「いいか華鈴、屍と痛みを乗り越えて、人は強くなる……否定は逃避と変わらない、目を逸らさずにこの世界を受け入れろ。例えお前の命は既に滅んでいたとしても、お前の人生はそこから始まるんだ」 「いや、ここでそんな台詞使われてもどう対応していいか……何ですかこのキラキラした演出効果」 残暑の ちょっと人が殺されたり未遂が二件あったりしたけど、ヴァ高(略称)は今日も平和です。 強引におわる。 ※作中で使用したシグマは |